VIEW食アカの視点Vol.8

『情熱』を注ぐ

「食アカの視点」では取材を通して食アカが気づき、考えたことを綴ります。食を支える人生を歩む人たちが語ってくださる話は学びの宝庫です。そのお話が示唆する大切な本質を蓄積し、多くの人々と共有してまいります。

 

ソムリエ 岩田渉氏への取材を終えて

『情熱』は『生きる力』となる

岩田氏の歩みには、主体的なキャリア選択、大胆で勇気溢れる行動、そこに自分をアジャストさせるセルフマネジメント能力の発揮の場面が満載でした。

生活費を自分で稼ぎながらの大学生活を送りながらも、大胆に大学を休学して海外に渡ったこと。有名シャトーにも臆することなく門を叩き、学ばせてもらったこと。緊張する必要がないと思えるほどの準備を重ねてコンクールに挑み、結果を出したこと。目標を定め、そこから逆算してやるべきことをつくり、やらなければならない状況に意図的に自分を追い込んできたこと。誰にでもできることではありません。

その行動そのものに岩田氏の『生きる力』が顕在化されています。その『生きる力』があるからこそ、節目ごとに未来の可能性を拡げる行動を選択・実行することができたのでしょう。その積み重ねとともに、さらにその『生きる力』は強化され続けています。

では、その『生きる力』とは何でしょうか?

以前、食アカの視点Vol.2:未来を生き抜くための「資本=“もとで(元手)” 」において、未来を生き抜くために私たちには3つの資本が必要であるという考え方を紹介しました。3つの資本とは、「知的資本」、「人間関係資本」、「情緒的資本」です。

岩田氏は既に3つの資本全てが充実していますが、特筆すべきは「情緒的資本」です。「情緒的資本」とは、「自分自身について理解し、自分のおこなう選択について、深く考える能力、そしてそれに加えて、勇気ある行動をとるために欠かせない強靭な精神をはぐくむ能力」*のことです。

まさに岩田氏が発揮してきた力そのもの。この力は、何かに『情熱』を傾ける経験を積み重ねることで培われます。打算的なものではなく、『情熱』を傾けること自体の喜びを知り、その喜びのために全力を尽くすことで培われる力。3つの資本の中で最も重要かつ獲得が難しいとされます。

岩田氏は、取材中に「楽しかった」という言葉を何度も口にされました。記事本文では詳細を省略しましたが、高校生の頃に働いたラーメン店では、ただの作業ではなく、自分で考えて工夫を重ね、その仕事にのめり込んだそうです。大学生になり、永松氏と出会うことになった居酒屋で働いたときも、ニュージーランドに渡ってワインの世界に踏み込んでいったときも、そこに全ての情熱を傾けていました。岩田氏は情熱を傾けたからこそ得られる喜びを何度も味わったのでしょう。だからこそ情熱を傾ける能力が磨かれ、その力がソムリエとしてコンクールに挑むステージを支えていたことが伺われました。

情熱の力は残り2つの資本を引き寄せる

さらに、「情緒的資本」つまり『情熱』に根差した行動は、残り2つの資本を引き寄せました。

情熱をもって一心不乱に取り組む若者を大人たちは応援します。一流の大人、かつて自らも努力してきて今に至る人ほど、未来に向けて努力をする若者を応援したくなります。岩田氏は、その大人たちとの触れ合いの中で「人間関係資本」すなわち「人的ネットワークの強さと幅広さ」*を獲得し、更なる成長のヒントやチャンスを見つけ、活かしてきました。

もちろん「知的資本」すなわち「知識と知的思考力」*も同時進行で蓄積します。特にワイン、サービスの道へと本格的に踏み出して以降の岩田氏は、その道における知的資本の獲得に情熱を注ぎこみました。結果的に3つの資本全てが好循環で影響し合いながら強化されたのだと推察されます。

3つの資本全てをバランスよく、しかも好循環で連鎖させながら成長させてきた岩田氏。その起点となったのは、見出した糸口に対して誰よりも『情熱』を注ぎ込むことにあったのかもしれません。

人はそれぞれ異なる環境でキャリア(人生)をスタートさせます。キャリアをスタートする時点において与えられた資本は決して同じではありません。しかし、そのキャリアにおいて、自分ならではの結果を出す人は、最初から与えられていた資本ではなく、自らが獲得した資本に根差して行動していることが多い。食アカの取材では、そのように感じています。

岩田氏は、自分の『情熱』を資本とし、自分の未来、可能性を拡げ続けている方でした。

*『ワークシフト』(リンダ・グラットン著 池村千秋訳、2012年 プレジデント社刊)p232~234より引用
参考文献:『ワークシフト』(リンダ・グラットン著 池村千秋訳、2012年 プレジデント社刊)

文責:食アカ