INTERVIEWインタビュー

後編 やり切れば、自分は潰されない

有機オリーブ栽培にはお手本やマニュアルがありませんでした。どうやればいいのかは自分自身で見つけなければならない道を歩んだ山田氏。しかし、だからこそ生き抜くことができたのかもしれません。山田氏の生き方、仕事の流儀を感じさせるお話を引き続きご紹介します。

 

食アカな人

2020年7月21日 香川県小豆島『山田オリーブ園』にてインタビュー実施

真面目に丁寧にやり続ける

山田さんが仕事で大切にされていることは何でしょうか?
とにかく、真面目に、丁寧にやり続けることが大切だと考えています。私は業界では後発組です。資本力も何もないところからスタートした新規就農者に過ぎません。畑も狭く、収穫量も大手とは桁違いに少ない。そんな私が生きていくには、とにかく真面目に、丁寧にやり続けるしかないわけです。その意味でも(自分がやっている)有機栽培は相性がよいというか、真面目に丁寧に良いものをつくりつづける農家のカタチだと感じています。
 
山田
真面目で丁寧にやり続ける力は、規模や資本力の差を凌駕するということですね。
前職時代、かなりのマーケティング費用を投下しても太刀打ちできない小規模な競争相手に出会ったことがあります。どんなに広告を出しても、そこの利用者は私たちに振り向かない(苦笑)。なんでだろう?と思って訪問してみたところ、特別なことは何もしていなかった。ただ、サービスを提供する人たちがひとつひとつの役割を丁寧に真面目に担ってっていて、利用者がみんなその人たちを信用し、好きになっていました。これは敵わないと実感しましたよ。資本力の問題じゃないと。今、私が目指しているのは当時の逆です(笑)。私が真面目に丁寧にやり続けることができさえすれば、自分が規模や資本力に潰されることはないと確信しています。
 
山田
真面目に丁寧にやり切る。まだまだやることが多そうですね。
試していること、試したいことはまだまだあります。今の栽培法、オイル抽出法は自分が試行錯誤して、失敗を重ねながら残ってきたもの。オイルを抽出するときも、温度を26度にすると香りがたつと思うので、井戸水をひいてきて機械に“かけ流し”にしている。機械壊れるぞと言われるんだけど(笑)、保冷剤を張り付けたり、いろいろ試行錯誤して今はそのやり方に。まだ試したいこともあります・・・。
 
山田
 

日本人だから・・・に甘えるわけにはいかない

挑戦は止まりませんね。
そもそもオリーブオイルは国産の比率が1%に届かないわけです。その中で国産をつくる意味はなんだろうかと考えるわけです。もちろん、日本人だから応援して買ってくれているという方もいますが、いつまでも甘えるわけにはいきません。せっかく私たちが国内で生産する以上、日本の気候風土で育ったオリーブオイルらしく、その風味をできるだけわかるようにしないと意味がありません。
 
山田
フレーバーオイルにも力を入れていますね。
今まで10種類くらいつくりましたが、残っているのは3種類です。これまでに無いものをつくりたいですし、皆がやっていないことこそやらなければならない。スペインではやっていないことを。ただ、なかなかその良さが伝わり切らなくて、課題も多いです。でも、やめませんよ。ベルガモットは当たったからそれだけでいいじゃん・・・ではダメです。私は新規就農者、守りに入る立場ではありません(笑)。
 
山田
 

ダメ出しされないといけない!

オリーブ農家への道を踏み出してちょうど10年ですね。今後の生き方について、何か考えていることはありますか?
今までの私の生き方は「選択しない生き方」でした。小豆島に移住したのは、ここに妻の実家があったから。他の移住先や耕作地を比較検討して決めたわけでもありません。農業する上でオリーブ栽培に行きついたのも当時の自然な流れに乗っただけです。他の作物と比較して選んだわけではありません。その時の状況で必然的にそうなってきただけ。必然である以上、そこで頑張り切るしかなかったわけです。だから、ここまでやり切ることができました。
 
山田
選択していない・・・ですか?
例えば、島には多くの若い移住者がやってきます。農業をしたり、カフェを開いたり。でも、残念ながら上手くいかないことも多く、気がつくとまたどこかへ移住してしまう人が少なくありません。それが悪いわけではないですが、もともと他に選択肢があって、その中で選んできただけだから、上手く行かないときに簡単に他の選択肢に乗り換えてしまう傾向は感じます。私にはその選択肢がもともと存在しません。だから、粘ることができるわけです。
 
山田
粘って、粘って、10年間ですね。
10年間、畑に籠っていました。粘り切ったという部分でその意味はあったと自負しています。でも、そろそろ限界です(笑)。
 
山田
限界・・・ですか?
私は10年間、誰からもダメ出しされていません。だんだんと自分が固くなっていくことを感じます。やったこともなく、考えたこともないことを始めないといけませんが、そのためには誰かにダメ出しされないといけません。新しいものを自分に取り入れたい。今回の書籍出版も、自分の中に貯め込んでいたものを一旦放出するためでした。本に書いた時点でノウハウは私独自のものではなくなりました。そのことでお尻に火がつきます。変わらなきゃいけませんし、そのために少し無理してでも島の外にも出ていき、新しいものをインプットしながら変わり続けたいと考えています。
 
山田
次なる展開が楽しみです。畑違いの仕事を経て農業の世界に。そこで日本初の有機オリーブ栽培を成功させた山田さんが次は何を成し遂げるのか、興味が尽きません。本日は本当にありがとうございました。
 
素晴らしい正解を選ぶよりも、自分が選んだものを正解にすることに力を注ぐ生き方が印象的でした。就農してまだ10年、粗削りな魅力を醸し出しながらも前に進もうとされる山田氏に僅かな時間の中でグイグイと惹きつけられました。