京都岡崎疏水沿い。春には桜が上品に沿道を彩る文化ゾーンの一角に、凛とした大人の空気漂うお店がある。『SEction D'or(セクションドール)』。ミシュランガイドやゴ・エ・ミヨ2020にも掲載されるダンドリ―チキン専門店だ。
ガラス越しにお店の中を覗くことはできるが、店名表示はかなり控え目。初めて訪れた人はその重厚感のある扉を開けるのにちょっとした緊張感を覚えるかもしれない。勇気をもって扉を開けると、そこにセクションドールが創り出す世界が存在する。
店内は無駄なものが一切ないシンプルな構造。塵一つ残すことを許さず、徹底的に掃除を行い、磨き上げた空間内には真ちゅう製のテーブルが置かれる。オープンキッチンスタイルだが、目に入る調理器具は見慣れないオーブンのような機械ただ1つ。この機械は過熱水蒸気調理専用機。セクションドールではシェフがこの機械を巧みに使いこなして調理を行う。火口はひとつも無い。店内で働くのはシェフただ一人。動きのすべてに無駄がなく、調理からサービスまでの全てが淀むことなく流れていく。
ここで提供される料理は、黄金比率のスパイス配合で支えられた唯一無二のタンドリーチキンと厳選された野菜が盛られた1皿。チキン同様、野菜も過熱水蒸気調理によって絶妙な火入れが施されている。創業後10年目を迎えて今もファンを惹きつけ続けるセクションドールのメニューは、開店以来、昼も夜もこの1皿とドリンクのみだ。もちろん食材そのものは常にその時期の最高を目指して変化しているが「タンドリーチキンと野菜の1皿」というスタイルを貫き通しながらファンを獲得し、知る人ぞ知る名店となった。
店名となっている『セクションドール』はフランス語で『黄金比率』を意味する。黄金比率とは、スパイスの配合だけの話ではなく、調理プロセスやサービスオペレーション、店内の空間デザイン、五感への働きかけのマネジメントまでを含むすべてについて組み立てられているのだろう。
食アカな人 vol.1となる今回は、その黄金比率の店を世に送り出したオーナーシェフ『永松秀高』氏に話を伺った。
*なお、この記事とは別に、2021年7月に収録した永松秀高氏インタビュー動画を
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