VIEW食アカの視点Vol.4

自分を信じながら疑う力

「食アカの視点」では取材を通して食アカが気づき、考えたことを綴ります。食を支える人生を歩む人たちが語ってくださる話は学びの宝庫です。そのお話が示唆する大切な本質を蓄積し、多くの人々と共有してまいります。

 

香川県小豆島『山田オリーブ園』園主 山田典章氏への取材を終えて

自分を信じる力

取材中にずっと感じていたのは、山田氏が持つ「自分を信じる力」の強さでした。

新しいことを始めるとき、その内容に新規性や独自性があればあるほど周囲からは否定的な意見が噴出します。常識的に考えれば「それは無理だろう」「わざわざそんなことをしなくても」と考えるのが合理的なケースが殆どですから。

しかし、そういう難しいテーマ・課題だからこそ、挑戦する価値があるのも事実です。多くの人が「面白そう」「できそう」と思うものであれば、自分がやらなくても誰かがやります。いえ、多くの人が同じことをやりますから、わざわざ自分が行う意味がありません。

山田氏が取り組んだ有機オリーブ栽培は、多くの人から「無理だろう」「そんなことをしなくてもいいのでは?」と反対されるテーマ・課題です。日本で誰も成功させていないわけですから。山田氏は、その反対意見を聞いたとき、「あなたにはできないのね。でも僕はできるから」と考えたそうです。

自分ならばできるという発想に合理的な根拠はないかもしれません。ただの自惚れと紙一重かもしれません。しかし、周囲がNoを突き付けるほど、その挑戦に価値を感じ、それを実現する自分を信じ切る。これは独自の結果を出すために不可欠な力の1つです。

実際、山田氏はその力を発揮し、「できない」の真因を探し当て、ゾウムシという難攻不落に見えた阻害要因に対処する術を発見しました。

自分を疑う力

その一方、10年間に渡って自分の力を信じ続け、結果を出した山田氏が今、発揮しようとしているのは「自分を疑う力」だと感じました。

自分を信じる力は大切ですが、その力が暴走するとただの「勘違い」「思考停止」になってしまいます。結果が出たときほどその副作用にも注意が必要です。

山田氏はその危険性を察知し、「そろそろ限界です」と今の自分を客観視しています。本当にこのままでいいのか?まずいのではないか?と自分を冷静に検証していることが伺われます。

一般的に、継続的に価値を生み出し続けるためには、「クリティカルシンキング(批判的思考)」(*後述)を発揮することが重要だとされます。山田氏が発揮しているのは「クリティカルシンキング(批判的思考)」にもつながる「自分を疑う力」でした。

「自分を信じる力」と「自分を疑う力」は車の両輪のようなものです。片方が欠けていると継続的に結果を出し続けることは難しくなります。

山田氏は今の道に入って10年間、必死に踏ん張って結果を出し、今もまだ試行錯誤しながら発展を続ける途上にある方でした。その発展は、2つの両輪で構成される「自分を信じながら疑う力」が動かしているのかもしれません。

*クリティカルシンキング・・・批判的思考と訳され、物事の前提条件に「本当にそうか?」という疑問を持って考えを深め、課題を解決していく“頭の使い方”のこと。

文責:食アカ