「食アカの視点」では取材を通して食アカが気づき、考えたことを綴ります。食を支える人生を歩む人たちが語ってくださる話は学びの宝庫です。そのお話が示唆する大切な本質を蓄積し、多くの人々と共有してまいります。
京都『ピッツェリア ナポレターナ ダ ユウキ』オーナーシェフ 鎌田友毅氏への取材を終えて
鎌田氏の口から、頻繁に飛び出した言葉があります。
「視る(見る)」、そして、「考える」。
鎌田氏はその繰り返しを経て、最短距離で料理人、ピッツァイオーロ(ピッツァ職人)としての高い技術を習得し、オーナーシェフとしての成功を手にしたのでしょう。
激務の中にあっても先輩たちの動きをしっかりと観察し、自分に訪れるであろう「上に行くためのチャンス」と「そこで鍵を握る仕事」を見つけだし、予め準備していたこと。
言葉が通じないイタリア人の師匠の動きを見逃すことなく観察し、その動きや指示の意味を必死で考えながら技術を吸収し、成長のための機会をモノにし続けたこと。
ナポリ修行時代には言葉が通じず、ネットで情報を調べることもできない環境下で悔しい想いをしながらも、何とか課題を突破しながら限られた時間で最大限のものを得て帰国したこと。
お店をオープンさせて以降、一日の終わりに「反省」するという日課を欠かさない。各方面をしっかりと視ておき、考えることでお店を成長させ続けてきたこと。
鎌田氏が行ってきたことは、全ての仕事に通じる「基本」ですが、やり続けることは簡単ではありません。だからこそ、やり続けることができている鎌田氏はここまでの成果を得ることができたわけです。
ビジネスの世界にはPDSという考え方があります。PとはPlan(なりたい姿を描き、そのためのシナリオを描くこと)、DとはDo(その実現のために行動すること)、SとはSee(ちゃんと状況を視て、その意味を考えること。深く考え、考えるというニュアンスを表すため、この記事では「見る」ではなく「視る」という漢字を使用)のこと。この繰り返しが仕事の成果を積みあげます。
そのとき、鍵を握っているのはSeeの力です。ちゃんと状況を視て、考え抜いたうえで目的を持って動く。そして、動いた結果をちゃんと視て、考え抜くこと。鎌田氏が選んだのは、日本人にとって未整備、未確認のことだらけの領域でした。だからこそ、鎌田氏はそのプロセスを何度も繰り返し、道なきところに道を切り拓き、前進してきたわけです。
また、自力で道を切り拓いてきた鎌田氏は、迫りくる課題に対して誰かが用意した既存の正解を探すのではなく、自分で答えを創り出し、結果的にそれが正解だったと言える状況に持ち込んできました。食材が無いならば、まわりでやっている人はいなくても直接輸入するという大胆な打ち手を選び、それが正解だったと言えるように目の前の壁を壊して結果を導きました。こうした動きは、ネットで検索して正解らしきものを調べてから動くクセのある人たちとは一線を画します。
溢れんばかりの情報が流通している世の中。そんな時代だからこそ、成功と失敗をわけるのは、どこにも正解が書かれていない問題と向き合い、自分なりの答えを創りながら動く力なのかもしれません。鎌田氏は、「自分自身で視て、考え、答えを出し、動きながらそれを正解に近づける力」を勝負どころで発揮していました。
料理人、ピッツァイオーロ(ピッツァ職人)としての技術だけではなく、成果を出すための土台となる力を発揮してきたからこそ、鎌田氏の今があるのではないかと感じました。
文責:食アカ