INTERVIEWインタビュー

第3回 独立する料理人にとって大切なこと

唯一無二の世界観、料理の世界を追究して『SEction D'or(セクションドール)』にたどり着いた永松氏。永松氏のお店はその世界観を貫きながら10年目の節目に入っています。ミシュランガイドやゴ・エ・ミヨにも掲載される独自の店を確立した永松氏に、次世代へのメッセージを送っていただく意味も込めて「独立する料理人にとって大切なこと」を聞きました。

 

食アカな人

2020年3月28日、29日 京都『SEction D'or(セクションドール)』にてインタビュー実施

人の意見を聞かない ~確固たる思想~

独立する料理人、もしかすると、独立するかどうかにかかわらない話も含まれるかもしれませんが、そんな人たちにとって大切なことは何かありますか?
最も大きいのは、「人の意見を聞かない」ことです。
 
永松
聞かないほうがいいのですか?
そのレベルにまで自分を高め、積み上げないといけないという意味です。人の意見を聞かなくてもよいところまで自分を持っていくということ。ただ単に、やりたいことを好き勝手にやるということではありません。人はいろいろなことをいってきます。それに振り回されているようではダメです。自分で考えて、自分で決めて、自分で何かを生み出さないと。
 
永松
そのためにはどうすればいいのでしょうか?
やり方は何でもいいんですよ。いろいろなお店に出かけるとか、本を読むとか、好きな料理を見つけたらパクりまくっても構わない。でも、自分の意志で動き、自分で決めて、自分で自分を「人の意見を聞かなくても大丈夫」なレベルにまで持ち上げていくしかない。孤独なこともあるでしょうし、やる気は必要です。でも、そういう自分が確立できれば大丈夫です。 やっぱり、確固たる思想、信念があるかどうかなんですよ。見た目を要領よくパクっても、パクっただけでは本物ではない。例えば、うちのテーブルを見てカッコええなぁと思ってまねしたとしても、やっぱりそこに思いが乗っからない。これは僕が試行錯誤して考えたものだから、この店の中で意味を持つ。だから、最初はパクったり、何してもいいのだけど、最後は自分で考えて試行錯誤し、人に左右されない自分で動けるようなレベルまで上がっていく必要があると思います。
 
永松
 

自分への厳しさや縛り

その裏返しになると思うのですが、ダメになっていく店、料理人には共通点はありますか?
先ほどの話の流れでいえば、信念が無いままに人の意見に振り回されるようでは続けられません。他には、うーん・・・人としての幼さ、子どもっぽいというのかな・・・自分に甘くて、自分の中で簡単にOKを出すばかりの人はダメですね。
 
永松
特に独立開業すると、自分で自分を律することが大事ですね。永松さんは普段、自分を律するために何か行っていることはありますか?
自分でつくったルールがあって、それにどんどん縛られるようになりました(笑)。お店を始めて最初の5年は借金の返済という縛りがありました。すべて返済を終え、さて自由!とはならなかったですね。例えば、自分の生活で「時間割」をつくり、その通りに生きてみています。1時間目はコレ、2時間目は・・・と。きついルールですが、めちゃ楽になりました(笑)。
 
永松
自分で書くのですか?
僕は自分で書きます。もちろん細かいものではないですよ。仕込みとか、項目はだいたい決まっている。うちは2カ月の予約をとるので、2カ月分の予約を書き出すとともに自分の予定を書いて時間割にする。終わったら消す。そして月末にそれをぐっしゃぐっしゃにして捨てる(笑)。最高にスッとします!
 
永松
 

自分の中に複数の自分を持つ

飲食店は簡単にオープンできますが、続けられなくて廃業するケースがとても多いです。自分で店を開くということは、好きな料理をつくればいいということではない。永松さんは、料理人としての自分をどのようにマネジメントしているのですか?
レベルの低い話ですが、お店に入る売り上げが自分のお金だと勘違いしているから経営がおかしくなるのはよくある話です。料理だけについていえばすごい才能だったのに、気がつくとこの世界から消えていたという例は数えきれないほどあります。 僕の場合は人工的にですが・・・自分が多重人格を持っていたいと思っています。
 
永松
人工的な多重人格ですか?
はい。例えば、調理する僕、サービスマンの僕、会計の僕、経営者の僕といった感じで4人の僕に自分を分けるんです。紙を4つに切って、それぞれの自分の役割を果たしていく。自分の中に複数の自分を持っていれば、その中の1つをやっているときには他のことを忘れて集中できます。オーナーシェフはそうじゃないとパンクするし、何かが抜け落ちるとうまくいかない。でも。すべての自分のやるべきことを回収して終わったら楽しいですよ。
 
永松
 
永松氏は自分と向き合い、自分ならではのものを模索し、今のセクションドールにたどり着いたのだと実感するお話でした。つまり、確固たる意志を固め、その実現に向けて自分を厳しく管理している。そして、それを楽しんでいるようです。実は、取材に際して永松氏にはこれまでの人生を振り返りながら満足度ラインを書いていただくワークを行ってもらいました。ライフラインチャートというキャリア振り返りツールの1つを利用したのですが、あまり満足・不満足のラインが変動しないのが特徴でした。何故なのだろうか?と考えながら取材を進めたのですが、永松氏の価値観の中で「満足・不満足」という言葉がなじまないのだと分かりました。他責にすることを嫌い、自己責任でキャリアをつくってきたからこそだと思います。次回はそんな永松氏に「大切にしていることと今後の展望」について伺った話を紹介します。