INTERVIEWインタビュー

前編 これしかなかった!

日本初の有機オリーブ栽培に成功し、有機JAS認定を受けた山田氏は10年前まで全く畑違いの会社員でした。しかし、新規就農者でありながら、誰も成功させていなかった有機オリーブ栽培のノウハウを確立し、専業農家として歩んでいます。その経緯を山田氏に伺いました。

 

食アカな人

2020年7月21日 香川県小豆島『山田オリーブ園』にてインタビュー実施

戻るべきところに戻った

山田さんが農業の道に入って約10年。その前は全く異なる教育業界で会社員をされていました。どんなキッカケでこの道に入られたのですか?
実は、もともと農業をやりたかったんです。子どもの頃は畑仕事が好きな祖父が身近にいて、農作業は楽しいなぁと感じていました。大学は農学部でしたし、そもそも農業志向でした。でも、大学4年生のとき、想定していた大学院への進学を諸事情で諦めることになり、急きょ畑違いの会社に就職することになったわけです。その会社の仕事が思いのほか面白く、長い間、会社員をすることになりました。
 
山田
20年間、東京で農業とは縁遠い仕事をされていたわけですね。
はい。会社員時代は、新規ビジネスとして保育事業を立ち上げたりしました。仕事として面白かったですよ。でも、40歳を前にした頃、はっと気づきました。「(やりたいことは)これじゃなかった」と(笑)。当時、少し長い休みをもらって小豆島に来ていたんです。小豆島は妻の実家がある場所です。島で日光を浴びながら竹を切っているときに、「これで生活できないか?」と思ったわけです。
 
山田
竹・・・ですか?
竹炭つくって売るとか・・・。役場に相談したら「都会から来た人って、そういうこと言うんだよね」と言われました(笑)。でも、そのときに「竹では無理だけど、オリーブを植えれば食っていけるよ」と言われました。そして、こうすればオリーブで食っていけるという試算も見せてくれ、そこから新規就農への流れが動き始めました。
 
山田
 

生き抜くためにできることは何か

有機栽培を勧められたわけではありませんよね?
もちろんです。国内のオリーブ栽培を「有機」で成立させるノウハウは存在しませんでしたし、島で挑戦している人もいません。ましてや都会からやってきた新参者に有機栽培を勧める人などいませんよ。決して歓迎されるものではありませんし。
 
山田
ということは、有機栽培は山田さん自身が見つけたアプローチということですね。
今思えば、結果的に私にはこれしかなかった!ということかもしれません。当時、3haのオリーブ畑に3千本のオリーブの樹を植えて実を収穫すれば、家族で何とか食えるということがわかりました。しかし、現実にそこまでの広い畑を島で借りることは不可能でした。私がオリーブで生きていくには、もっと狭い畑で食っていく方法を見つけるしかありません。そのためには単価アップです。単価アップのために自前でオイル加工まで行い、付加価値をつけて自分で売る。とはいえ、既に世の中にあるものと同じものをつくっても後発である私からは買ってはもらえないだろう。何か違うものでなければ買ってはもらえません・・・。
 
山田
そこで「有機栽培」に行きついたわけですか?
そうです。だから、他の有機栽培に取り組む人たちからは「山田さんはビジネス有機だからね」と言われます(笑)。私は決して思想としての「有機」を掲げ、生き方として「有機」の道を追究しているわけではありません。そもそも農薬を全否定しませんし、農薬にも意味があると理解しています。全てを十把一絡げで悪と考えているわけではありません。実際、ちょっとヤバイものから全く問題ないものまで幅がありますから。
 
山田
でも、山田さん自身は徹底して有機でのオリーブ栽培を追究し、方法を見つけ、その道で生きてきました。国内でのオリーブ栽培の大敵であるゾウムシの生態を調べ続け、誰も為しえなかった国内での有機オリーブ栽培ノウハウを確立されました。
それは、自分ができることは何か、生き抜くためにできることは何かを追究し続けた結果にすぎません。これからも農業として何が良いのかは自由な発想でとらえていくことが大事だと考えています。
 
山田
山田さんにとって、「有機」であること自体が最優先ではないということでしょうか?
もちろん「有機」で育てているからこそ、お客様が求められるものを提供できているわけです。しかし、「有機」であれば何でもよいという考え方ではありません。お客様の期待に応え、選んでもらえるものを「有機」として成立させるのが私の仕事です。お客様にとって良いものでなければ選んでもらえませんから、そこは外してはいけないと考えています。そこはちゃんと、徹底的にやります。
 
山田
 
東証一部上場の大手企業に勤務する畑違いの会社員からオリーブ専業農家へ。しかも、国内で初めて有機オリーブ栽培に成功し、JAS認定まで取得した山田氏ですが、それは農家として生きていくための道を探り続けた結果として到達したカタチだったようです。後編では、山田氏の仕事へのスタンスや生き方が浮かび上がるお話をご紹介します。