INTERVIEWインタビュー

第4回 未来を創り、次世代につなぐ

食アカな人Vol.6最終回では、岩田氏からソムリエ、サービスパーソンとしてキャリアを積もうとする次なる世代へのメッセージをいただいたうえで、ご自身の未来への想いを伺いました。

 

食アカな人

2020年10月20日 京都にてインタビュー実施

人に興味を持つ

これからソムリエ、サービスパーソンになっていく人たちに何かサジェッションをいただきたいと思います。岩田さんはソムリエであり、サービスパーソンとしてスキルアップされ、今も勉強を続けていらっしゃいます。そもそも、ソムリエという仕事とサービスパーソンという仕事の関係をどのように整理されていますか?
私はソムリエとサービスパーソンとを重ねて考えています。ソムリエはサービスパーソンの中の一人です。サービスパーソンであることから外れると、それはソムリエではないと私は考えています。ソムリエの仕事は、自分が好きなワインを伝えることではありません。ワインが好きすぎると、ついついワインを通してお客様を見てしまいがちですが、順番が逆になってはいけません。最初に見るべきはワインではなくお客様。つまり「人」以外にありません。お客様とコミュニケーションをとり、どんな方なのか?普段はどんなものを飲まれていて、今日はどんな気分なのか?そのことを考えながらお客様にとってのベストなものをお薦めする。お客様に「この人にサービスしてもらいたい」と思ってもらうことにこそ、ソムリエの本質があると私は思っています。
 
岩田
その本質に沿ったサービスを提供するためには何が必要でしょうか?
人に興味を持つことではないでしょうか。最高のサービスパーソンの一人として尊敬する西田オーナー(西田稔氏:『Cave de K』『Bar K6』『Bar Keller』等、京都を代表するBarオーナーであり名バーテンダー)からは「人を愛しなさい」と教わりました。水を飲むスピード、服装、相手の全てに興味・関心を持つ。同じ人でも日によって変化する。普段から関心を持って注意深く人を見ていれば、仕事でも自然にできるようになると言われてきました。私もそのことを意識していますが、まだまだ意識しないとできないレベルです。
 
岩田
 

世界に出て可能性を拡げて欲しい

これからソムリエ、サービスパーソンを目指す人たち、その予備軍の若い人たちにとって大切なことはなんでしょうか?
物事を堅苦しく考えないでいただきたい。できるだけいろいろな場所に行き、多くの人に出会っていただきたいと思います。今の自分の考えは、自分の想像以上に小さい、ちっぽけなものかもしれません。私の場合は、海外を旅することで視野が拡がりました。世界に出て、自由な発想を知り、生活スタイルや働き方への固定観念を捨て、経験を積みながら可能性を無限に拡げていただきたい。日本に閉じこもった状態では本来のポテンシャルを制限したままで終わってしまうかもしれません。苦労してでも外に出て、人と会って、異文化に触れることがとても大事です。ソムリエにとって、各地で人と触れ合い、その土地のものを飲んで、食べて、食文化を理解しておくことはとても重要です。現地に行かなければわからないことも多い。でも、この仕事は、食べる・飲む・旅をすることが好きな人にとっては最高の仕事ですよ。好きなことをしてお金までいただけるわけです(笑)。もちろん勉強は必要ですが、魅力的な仕事です。
 
岩田
今も勉強を続ける岩田さんは、とても楽しそうに見えます。
最近、日本酒の勉強も始めました。もともと日本酒は得意ではなかったのですが、世界に出たときに自分が日本のことを全く知らないと痛感しました。日本人のソムリエとしてのアイデンティティという意味も含め、日本人として日本のことに誰よりも詳しいことは必須だと知りました。突き詰めれば突き詰める程、新しい課題が出てくる仕事ですが、究めることができないところが面白いわけです。
 
岩田
再び世界を目指すことも視野に入っていますか?
もちろんです。ただし、20代の頃と違い、職務として果たすべき責任も増えました。20代の頃のように、コンクール優先で多くの時間をとることもできません。環境が変わる中で3年に一度のコンクールに挑戦するタイミングをアジャストさせなければなりません。
 
岩田
再び世界を目指すことも、ソムリエ、サービスパーソンとして業界の未来を描き、若い世代を牽引していくことも、岩田さんの中では1つのベクトルとして結びついているような気がします。
未来を創ることは大切な仕事だと考えています。かつて先輩方が創ってこられたように、今度は私たちが創り、つないでいかなければなりません。世界が変わっても衣食住は無くなりません。その中で私たちが何をできるか?これからのソムリエ、サービスパーソンに求められるものは何なのか?そのことを追い求めていきたいと思います。
 
岩田
どんな未来が描かれるのか、本当に楽しみです。今日はお忙しい中、本当にありがとうございました。
 
岩田氏自身が歩んできた時間の中で先人から受け取ったもの、自ら見出したもの、これから創り出し、次なる世代へと託す役割を担おうとしているもの・・・それぞれを俯瞰しながら自分のキャリアを自分でマネジメントしていることが印象的でした。自分の次に続く若手へのメッセージは実体験に根差し、かつてヨーロッパを旅して「伝えたい」と抱いた想いの上に積み上げられたものでした。個々の出会いは偶然かもしれないけれど、その出会いを縁として今に活かしたのは岩田氏自身の力によるのでしょう。示唆に富む話をいただきました。