INTERVIEWインタビュー

第4回 農業、家業の価値を未来へ

株式会社みやじ豚の代表取締役社長であると同時に、「NPO法人 農家のこせがれネットワーク」代表理事も務める宮治氏。その活動の原点は、 “一次産業を、かっこよくて・感動があって・稼げる3K産業に”という自身が掲げる目標にありました。その取り組みの中で見えてきたこと、ご自身の経験も踏まえて今想うことを伺いました。

 

食アカな人

2020年9月23日 神奈川『株式会社みやじ豚』にてインタビュー実施

理想の人生を送ることが可能

宮治さんは「NPO法人 農家のこせがれネットワーク」という組織を立ち上げ、精力的に“農家のこせがれ”の方たちに向けた活動も続けてこられました。
“一次産業を、かっこよくて・感動があって・稼げる3K産業に”を実現するのは自社だけでは不十分だと考え、実家に戻って3年後くらいに立ち上げました。僕は親父から「農家では飯が食えないから」と言われていたわけですが、同じ境遇の人が世の中にはたくさんいるのではないかと考えました。僕の実感として、実家に戻っての暮らしは快適でしたし、可処分所得が都会での生活とは明らかに違います。給料下がっても豊かに暮らせるし、そういう生き方もあるということや、農業の魅力や可能性をちゃんと伝えたいと思ったのです。
 
宮治
魅力や可能性が無いという先入観で終わらせず、実態を経験とともに伝えようと思われたわけですね。
実際、都会でサラリーマンやってビジネスの経験を積み、そこで身につけたスキルやネットワークを親父の技術や経営資源と融合させれば、新しい経営のモデルをつくることができます。楽しく生きられる可能性があります。自分自身がそのことを体験し、その仲間が欲しいということもありました。
 
宮治
当時、かなりの注目を集めましたね。
いろいろなことをやりました。農業実験レストラン、スター農家発掘オーディション・・・農業という仕事が世の中に取り上げられる場面を増やしたという意味で一定の貢献はできたと自負しています。地方創生のお手伝いもさせていただきましたし、講演は数百回規模。全国全ての都道府県に話に行きました。
 
宮治
改めてお伺いしたいのですが、宮治さんが考える農業の魅力とは何でしょうか?
自分にとっての“理想の人生”を送ることが可能な仕事だという点です。
 
宮治
どういう意味でしょう?
農家としてのライフスタイルは多種多様です。例えば、僕は基本的に農作業をしていません。養豚場での作業は親父と弟が職人として担い、僕はブランド化を含む事業全体のプロデュースを担うという家業の仕組みをつくりました。親父がやってきた農家の形とは異なりますが、僕はそういう農家の形もアリだと思います。ガンガンと稼ぎたいのであればそういう農業のやり方もあるだろうし、そうではないやり方もある。自分が理想とするライフスタイル、生き方を実現するために仕事の形を変えられる魅力が農家にはあります。だから、かっこよくて・感動があって・稼げる3Kを目指すことができるわけです。
 
宮治
 

農業最大の課題は“事業承継”

農業そのものが抱える課題として、どのようなものがあるとお考えですか?
そのことをずっと考え続けてきました。実は「NPO法人 農家のこせがれネットワーク」は一通りの役割を終えたと考え、事業の大半を当時一緒に携わってくれていた方にお渡しして規模を縮小しました。そのときに改めて考えたのが「農業の問題点を考え直そう」ということでした。そして、1つのキーワード、重要な課題にたどり着きました。
 
宮治
何でしょうか?
“事業承継”です。“事業承継”とは、簡単に言えば経営の代替わりのことです。多くの産業において経営者、社長の高齢化が進み、次世代への代替わりが進んでいないことが課題となっていますが、農業の世界は特に進んでいません。そもそも農業界には“事業承継”の概念そのものが無いと言っても過言ではないくらいに遅れていました。農業の世界は職人肌の人が多く、息子たちは自分が死ぬまで後ろについて作業をしていればいい、自分が死んだら代替わりだという感覚の人が少なくありません。でも、その頃には息子さんたちも高齢化してしまっています。それでは勿体ない。
 
宮治
巷では農家の高齢化問題が叫ばれていますが、実際には、後継者がいるにもかかわらず次世代への事業承継が進まないことに問題の本質が隠れているのかもしれませんね。
若い世代が新しいスキルやネットワークを農業に持ち込めば未来が変わります。しかし、事業承継が進まなければ農業に未来はありません。その解決に向けて、農業分野における事業承継問題の解決に相当の時間を割いてきました。農業の多くは家業、つまりファミリービジネスとして経営・運営されていますので、その本質についても研究・勉強をしながら、業界への働き掛けを行っています。
 
宮治
ファミリービジネスという概念自体、日本ではあまり浸透していないのではないでしょうか。
はっきり言えば、印象が悪いですよね(笑)。メディアに取り上げられるのはお家騒動か不祥事のときくらい。世襲という言葉のイメージでどこかネガティブにとらえられやすい。でも、ファミリービジネスにはメリットも多い。僕は丸2年間、東京で「農家のファミリービジネス研究会」という勉強の場を毎月開催していました。そこで身につけた知見をもとに農業青年向け雑誌で親元就農特集の監修したり、JA全農の事業承継ブック作成に参加したり、大前研一氏が創業したビジネス・ブレークスルー社と一緒に農業後継者向けの承継講座をつくったり・・・農業界に事業承継という概念、言葉を広めてきました。
 
宮治
株式会社みやじ豚は早々に後継者である宮治さんが親父さんと向き合い、“事業承継”を進めて成功した事例ですね。自分が描く理想の生き方の実現という意味も含めて。
もちろん、今度は僕自身が次の代への事業承継を実現し、100年後も続く“みやじ豚”を実現しなければなりません。ガチで家業として続いているところは事業承継が会社の仕組みの中に組み込まれています。凄いなと思います。「100年後も続く」を実現するためにやるべきことはたくさん残っています。
 
宮治
これからも美味しい“みやじ豚”を世に送り出し、多くの人を幸せにしてください。そして、自社の枠にとどまることなく、業界全体かさらに大きな枠組みの中で課題解決と発展に貢献されている宮治さんの動きにも期待します。本日はお忙しい中、取材に協力いただき、ありがとうございました。
 
宮治さんへの食アカインタビュー、最終回となる第4回では数々の経験を積んだ宮治さんが見据える農業界、社会全体の課題に視野を広げつつ、今の宮治さんの問題意識を伺いました。自社の事業の在り方を守りつつ、それを取り巻く社会構造全体の課題解決への貢献意欲も旺盛な宮治さん。今もご自身の理想的な生き方を模索されていることを実感する取材となりました。宮治さんの今後の動きに注目していきたいと思います。