INTERVIEWインタビュー

第1回 菓子づくりに魅了され、フランスを目指した

パリの2ツ星レストランでシェフパティシエを務め、京都の老舗和菓子屋では自身の名を用いた新しい菓子ブランドまで創り出す。そんな規格外のキャリアを積みながら独自の世界観を表現し続ける藤田怜美氏はどのように「菓子づくり」に魅了され、世界への扉を開いたのか? 当時を振り返っていただきました。

 

食アカな人

2020年10月6日 京都『kashiya』にてインタビュー実施

人を喜ばせる仕事

藤田さんが菓子職人を目指すことになったキッカケを教えていただけますか?
実は、子どもの頃、甘いものは好きじゃなかったんです(苦笑)。お菓子とかケーキとかにも興味がなくて・・・。ただ、おつかいを頼まれてケーキ屋さんに行ったとき、ショーケースの前で目を輝かせながらケーキを選んでいるお客さんたちに驚きました。すっごい楽しそうで・・・嬉しそうで・・・ケーキって、こんなに人を喜ばせるんだぁ・・・と。小学6年生のときです。
 
藤田
ケーキではなくてお客さんの姿に目をとめたのですね。
お客さんにこんなに喜んでもらえるって・・・いい仕事だなぁと思いました。ケーキそのものではなく、ケーキづくりという仕事に興味を持ちました。そして子どもながらに「ケーキをつくってみよう!」となったのが最初のキッカケです。
 
藤田
うまくできましたか?
いえ、当時はケーキができる仕組みをわかっていませんから(笑)。むしろ、うまくできず、わからないことが多いことに惹きつけられました。私は何かに興味を持つと、とことんやり続けるんです。当時、多分からかわれたのだと思うのですが、友だちから「卵白を泡立て続けると生クリームになる」と言われました。なるわけがないのですが(笑)。そうなんだ~と思って、ひたすらやり続けました。
 
藤田
どんなに泡立てても卵白は生クリームにはなりませんよね。
なりません(笑)。でも、負けず嫌いなので簡単には諦めません。そもそも泡立て器のことも知らなかったので、お母さんに箸を借りてかき混ぜ続けました。箸で混ぜ続けてもメレンゲにさえなりません(笑)。でも、TVとか見ながらひたすら続けて・・・ちょっと泡が出たら「もう少しだ。いける!」と思ってさらに頑張りました。お母さんはわかっていたはずですが、何も言わず、私のやりたいようにやらせてくれました。
 
藤田
嫌になりませんでしたか?
負けず嫌いでしたから(笑)。それに・・・今もそうですが、私はうまくいかないことやわからないことに出会うと、その理由が気になるんです。何故なんだろう?どうやればいいの?・・・と突き詰めて調べます。菓子づくりをしていると、これとこれを掛け合わせるとどうなる?とか、化学の実験をするような面白さがあります。もともと形のない粉や液体だったものが化学反応でお菓子になっていきます。それが面白くて。自分が食べるためではなく、好奇心や探求心に駆られて菓子づくりにのめり込みました。中学生の頃には菓子職人になると決め、高校生になるとケーキ屋さんで仕事をさせてもらいながら「本場フランスに行く」ことを目指すようになりました。
 
藤田
 

ベースとなる力を大切に

高校卒業後は本格的に菓子職人としての修行開始ですね。大阪の辻製菓専門学校に入学し、卒業後は思い描いていた通りにフランス校へと進学されました。
大阪の専門学校時代にもっとも力を入れて学んだのは「製菓理論」でした。お菓子は化学反応でつくられるという側面があります。菓子職人としてその理論を熟知しておく必要があります。材料の組み合わせ、重さ、温度、調理方法・・・その意味を理論として知り、大切に身につけたことが私の仕事のベース(土台)になりました。
 
藤田
菓子職人としてのベースを最初につくったわけですね。
それともう1つ。当時、フランスの伝統菓子についてかなり学ぶことができました。辻(辻製菓専門学校)では、フランス人も知らないような地方の伝統菓子も含め、たくさんの伝統菓子について教わりました。伝統菓子は地域の特徴や文化的な背景に根差してつくられています。菓子職人はそのことを学び、技法や考え方を熟知しておくことが大切です。
 
藤田
文化、伝統としての意味も含めて理解するということですね。
実際、フランスでシェフパティシエになったとき、この勉強が役立ちました。私が日本人だからということもあったかもしれませんが、地方の伝統菓子のことを持ち出しながら「あれを食べたい」「これを食べたい」と細かなオーダーを出されることがありました。そんなときも「あのことを言っている」と理解できました。菓子が根差している歴史や伝統、文化を理解することは和洋問わず大切なことだと今も感じています。
 
藤田
 

一流の仕事はきれい

大阪の辻製菓専門学校を卒業し、フランス校にも進学されました。フランス校ではどんなことを学んだのでしょうか?
菓子職人になる以上、本場フランスで学ぶのは当然だと思っていました。実際、フランスでは研修としてM.O.F.(Meilleur Ouvrier de France:フランス国家最優秀職人章)のシェフが率いる多忙で緊張感溢れるショコラティエに入り、短期間に多くの経験を積むことができました。本場で一流に揉まれ、ハイレベルな世界で菓子職人が見せる「仕事」への姿勢、動き方を間近で学ぶことができました。
 
藤田
「仕事」への姿勢はどんなところに現れていたのでしょうか?
例えば・・・仕事がきれいかどうか?という点です。研修先のシェフもそうですが、フランス校で指導してくださった恩師の仕事は本当に綺麗で清潔でした。服は常に全身真っ白で、決して汚しません。仕事の綺麗さや清潔さは世界の一流シェフに共通します。実は、帰国して就職した先でも同じことを実感しました。そうした仕事への姿勢、動きを学ぶことができました。
 
藤田
 
人を喜ばせる仕事として興味を持ち、形のない粉や液体がお菓子になっていく仕組みに引き込まれた藤田氏。好奇心や探求心を刺激され、深くその道に入り込み、それを仕事とすることを決めた以上は本物を目指して本場で学ぶ。藤田氏の物事に取り組む姿勢は当時から一貫していたことが伺われます。次回からは、学校を卒業し、社会人、菓子職人としてキャリアを積み重ねた頃のことを伺います。