「食アカの視点」では取材を通して食アカが気づき、考えたことを綴ります。食を支える人生を歩む人たちが語ってくださる話は学びの宝庫です。そのお話が示唆する大切な本質を蓄積し、多くの人々と共有してまいります。
京都『SEction D'or(セクションドール)』オーナーシェフ 永松秀高氏への取材を終えて
一般的に、ハイパフォーマー(成果を出す人、要するに“できる人”)には幾つかの特徴があると言われています。
例えば、過去に自分が行った行動や当時考えたことを明瞭に覚えている方が多い。また、全ての思考行動について、自分なりの理由や工夫があり、質問するとスラスラと答えが出てきます。さらに、過去の話を語る時に「私が」「私は」を主語にして意味づけしながらお話をされます。仕事ができる人は、どんな環境変化があろうとも、全てに自分自身で意味づけし、主体的に自分自身を環境の中でコントロールしながら結果を導き出していますから、話が「何となく他人事」ではなく「自分事」として明確に語られるわけです。
永松氏の取材でもそれは顕著でした。記事で紹介できたのはごく一部に過ぎず、2日間に渡る取材の中では具体的な記憶と明確な背景や自分なりの意図が次々と飛び出してきました。
そんな永松氏を支えていたものは、常にアップデートされ続けている『自己概念(self-concept)』だと感じました。
『自己概念(self-concept)』とは心理学用語の1つで、「自分は〇〇である」「自分がやるべきことは〇〇である」というセルフイメージのこと。人はそのセルフイメージに基づいて考え、行動し、感情を持つと言われています。永松氏はライフステージのそれぞれの局面において『自己概念(self-concept)』をアップデートし、その先につながる自分をつくりこみながら今に至っています。例えば、新屋シェフとの出会いで打ちのめされたときは、改めて自分を客観視し、新しい自分づくりを必死で行ったのでしょう。その先に黄金比率(セクションドール)を基軸とした自分があったわけです。
そして明確な『自己概念(self-concept)』を維持・成長させていく永松氏だからこそ発揮できる『力』があります。その中でも目立ったのは『自律一貫性』でした。
『自律一貫性』とは、「主体的に物事を捉え、他者に依存することなく、自己の価値基準にもとづいて行動する姿勢」です。簡単に言えば、周囲に流され、振り回されることなく自分で考え、自分で判断する力。自分のことを自分で律する(マネジメントする)力です。いろいろなものに触れ、他者に学び、周囲に影響される中で自分を磨くことも大事ですが、そういうときこそ『自律一貫性』を強く持っておかなければ自分を見失ってしまいます。永松氏は多くの人と出会い、さまざまな環境の中で自分を磨いてきたわけですが、卓越した『自律一貫性』があったからこそ、全てが独自の境地確立へとつながったのでしょう。
今も自らにルールを課して自己統制していること、お店では料理人ではない自分も複数設定し、上手に使い分けているといった話も『自律』そのものです。
そんな永松氏が直面しているテーマの1つが「料理人のセカンドキャリア」問題だということも印象的でした。
一人の料理人として、オーナーシェフとして、積み重ねてきた経験値はとても多く、永松氏の中には価値ある知見が詰まっています。一方で、人は必ず歳をとり、身体的な衰えも訪れます。40代後半は、徐々にそのことを実感し始める年齢なのかもしれません。
全ての変化を良い意味での「成熟」とし、これまで培ってきた価値ある経験に新しい意味を加えていくことができるライフステージへ。永松氏の模索は新しい局面を迎えていました。今回も『自己概念(self-concept)』のアップデートがかなり大掛かりに行われることになるのでしょう。
多くの食を支える人たちにとって避けられないテーマ。食アカとして引き続き追いかけてまいります。
文責:食アカ