「食アカの視点」では取材を通して食アカが気づき、考えたことを綴ります。食を支える人生を歩む人たちが語ってくださる話は学びの宝庫です。そのお話が示唆する大切な本質を蓄積し、多くの人々と共有してまいります。
京都『kashiya』オーナーシェフ 藤田怜美氏への取材を終えて
類まれなるスピードで階段を上がり、実績を出してきた藤田氏の職人修行の日々。フランスと日本、しかもトップクラスがしのぎを削る場所で集中的に力を身につけ、実績を積み重ねた歩みは規格外のものでした。
しかし、その修行のスタイル、上達へのアプローチは、分野を問わず共通する「修行の王道」と呼べる取り組み姿勢そのものです。
・トップレベルに到達するために「最高の修行の場」を目指し続けたこと。
・基本を重視し、その基本の意味までも自力で調べて吸収してきたこと。
・技の根底に組み込まれている『理』を追い求め、表面的なカタチよりも、その中に隠された『理』の構造を見つけ、力としてきたこと。
・数をかけて訓練し、完全に体得するレベルまでやり切ること。頭で「わかる」レベルではなく、実際に「できる」レベルにまで自分を持っていったこと。
・偏りなく、多方面からバランスよく学び、どんな状況にも対応できる技とバランス感覚を習得してきたこと。
こうした修行への姿勢は、(分野を問わず)本物の力を身につけるために重要と言われる要素そのものです。藤田氏の歩みはその王道を行くものでした。
中でも特筆すべきは、『理』を知ることへの飽くなき探求心です。
カタチを模倣し、そのカタチに近づき、何度も何度も繰り返しているうち、その意味がわかる。そうした学びのスタイルも世の中にはありますし、それが悪いわけではありません。しかし、それでは1つを理解するために数十年を要するかもしれません。藤田氏のアプローチは全く違います。
未知なるカタチを発見すると、まずは強烈な好奇心で興味・関心を抱きます。その興味・関心は「何故そうするのか?」「何故そうなるのか?」という、カタチの裏に存在する原理・原則の発見へと向けられます。そして、特筆すべき探求心をもって、藤田氏はそのカタチを体現している本人さえも気づいていない『理』を見つけ出し、その『理』を力として獲得します。
つまり、物事の水面下に存在する『理』を知り、その『理』を活かすことで、短期間で技術を高め、結果を出すことができるわけです。多くの人が数十年かけて気づくことも、わずかの期間で見つけ出し、結果に結びつけることができるのは、藤田氏がその『理』の獲得に力を割いてきたからではないかと推察されました。
鍵を握る『理』を見つけることができれば、自分の駆使できる力や投入できる時間等を最大限に活用することができます。それは、日常生活で言えば、「梃子の原理」を用いればわずかな力で大きなものを動かすことができるという現象と同様です。
藤田氏は、そうした『理』を見つけ出し、駆使することで菓子職人としての卓越した技を獲得し、自らの人生(キャリア)そのものさえも大きく動かしてきたのでしょう。
藤田氏のキャリア形成は決して偶然の産物ではありません。自ら描き、成功の為に必要な『理』を適切に見つけ出したうえで努力し続けてきたからこそ実現できたキャリアでした。藤田氏の歩みはそうした示唆に富んでいます。
文責:食アカ